「いまさらカセットテープ利用ガイドもないだろう」と思いの方も多いでしょうか、現在はことのほかカセットテープの利用についての情報が少ないことに気がつき、また、当HPでご紹介しているカセットウォークマンを現在もご使用中の方々のご参考になればと思い、つたない記憶と知識を元にメモ程度にまとめてみました。ご笑納ください。
・・・は資料不足により、割愛させていただきます・・・
ひとつだけいえることは、カセットテープを音楽用のメディアとしてここまでのレベルに引き上げたのは、他ならぬ日本のテープメーカー/オーディオメーカーだということです。
(1)TYPE I/ノーマルポジションテープ
いまやカセットテープ最後の生き残り種となったノーマルポジションテープ。しかも現在店頭では低グレードのものしか入手できないため、非常に萎えます。しかしもはや選択肢は残されていないので、がんばって使っていきましょう。磁性体として酸化鉄(Fe2O3、つまり錆びた鉄)を使用しているため、初期のテープはまさに錆色(赤茶色)をしていましたが、特性や耐久性を向上するためにいろいろな加工をするようになってからは黒っぽくなっていきました。
また、初期のノーマルテープは「スタンダードタイプ」「ローノイズタイプ」「ローノイズ・ハイアウトプットタイプ」など、さらに細かく分かれていましたが、いつの間にかそれぞれメーカーのモデル名などの表現に変化してしまいました(ソニーのAHF、BHF、CHFなど)。
ノーマルテープは高域MOL特性、ノイズ、ダイナミックレンジで他のポジションのテープより劣ります(過去には例外的にすごいテープもありましたが)。そのため、ソースによってはノイズリダクションなどを使用して、性能を稼ぐことが必要となる場合があります(クラシック音源など)。
1987年当時のソニーの代表的な音楽用ノーマルテープ「HF-ES」。現在のノーマルテープとは比べ物になりません・・
(2)TYPE II/ハイポジションテープ(クロームポジションテープ)
通称「ハイポジ」(死語?)。こちらもすでに絶滅寸前です。もともとはノーマルポジションに使用されている酸化鉄よりもさらに磁気記録特性を向上させるために二酸化クロム(CrO2)を使用したことから、クロームポジションと命名されましたが、テープメーカーが磁性体を変更(コバルト添加酸化鉄)していったため、「ハイポジション」という名称に変化しました。(クロムが硬度が高いためヘッド磨耗が問題になったり、二酸化クロム製造の副産物が当時話題の六価クロム(有害物質)だったりといろんな原因があったみたいです。ほとんどのメーカーではテープセレクタの英語表示は最後までHighではなくCrO2でしたが・・)
入力レベル自体はノーマルに比較してあまりアップしませんが、ノーマルテープよりノイズが低いため、ダイナミックレンジが広がります。また、高域特性がよいため、聴感上の音のクオリティがアップします。しかしながら低音の迫力ではノーマルが好ましい場合が多く、ソースとの組み合わせによっては音質的には好みが分かれるところです(これも、過去には例外的にすごいテープがありました・・・)。
おなじく当時のソニーの代表的なハイポジションテープ「UX-S」。これまた現在のハイポジションとは(以下略)
(3)TYPE III/フェリクロームテープ(FeCr)
メタルポジションが開発される以前に、ノーマルとクロームの両方のよいところを融合した(物理的に2種類の磁性体を2層塗りしている)規格として登場しました。メタルテープの登場とともにすぐ廃れてしまい、フェリクロームが録音可能なデッキはかなり旧いものとなります。まず使用することはないと思いますが、過去のテープ資産として再生する場合は、再生イコライザ70μS(ハイポジションまたはメタルポジション)で再生します。
ソニーのフェリクロームテープ「DUAD」。ソニーは最後までフェリクロームを作っていました。
(3)TYPE IV/メタルポジションテープ
今や店頭からは姿を消した、絶滅種のメタルテープ。
磁性体に鉄(錆びてない)を使用し、強力な磁束密度と保磁力を実現。カセットテープ進化の頂点として、ノイズリダクションが不要といえるほど高い信号レベルを入力できる媒体です(メタルテープは過去に恐ろしく強力なテープがいくつも存在しており、当時の戦略物資として輸出規制対象となったものもありました(^^;)。
音質的にもオールラウンドに使用できるため、ある意味もっとも使いやすいテープですが、残念ながら現在は店頭ではほぼ入手不可能です・・
当時のソニーの代表的なメタルテープ「Metal-ES」。MOLは10KHzで+1.0dB(0dB = 250nWb/m)とかなりの高性能テープです。
(4)テープ選択&購入手段について
再生機器として極限まで進化したウォークマンは、録音されたテープの性能を非常に鋭く表現する能力があります。特にプロフェッショナルシリーズは並の単品コンポ以上の再生能力があったりします(ラジカセなどは比較になりません)。そのため、「できるだけ音楽再生用として能力の高いテープ」を使用したいものです。
現時点では店頭在庫はほぼ絶望的な品揃えですが、ヤフオクなどで(一部の超高性能メタルテープやレアテープを除き)過去の高性能カセットテープを安く入手できる場合があります(ただし未開封に限る。高性能カセットテープは日ごとに入手困難になってますが、かといって開封・使用済カセットテープはカビ発生の恐れがあるため避けたほうが無難です )。
なお、一般的に中音域(ボーカル)がメインな楽曲はノーマルテープで十分楽しめます。高域が強いソースはハイポジションやメタルポジションテープを使用したほうがよい結果が得られます。なおハイポジションは低域には弱いので、すべての音域にオールラウンドなテープはメタルテープになります。
ただし、高性能メタルテープは、その性能を最大限に発揮できるような高性能デッキを使って録音された場合、時に録音された磁気エネルギーがウォークマンの磁気ヘッド・アンプの再生能力を超えてしまい、音がひずんでしまう場合があります。(これはウォークマンに限らず、通常の単品デッキでも発生します)。この場合、(本末転倒ですが)再生機器のレベルに合わせたテープ録音が必要となります。
こちらではウォークマンでの使用を前提とした録音ノウハウをご紹介します。
(1)デッキの選択
カセットデッキの個別の機器紹介は充実した他のサイトをご参照いただき(^^;、ここでは基本的なポイントをご紹介します。
@バイアス/レベルキャリブレーション機構ならびに3ヘッド搭載モデル
これらの機構が無くても、テープ録音は十分可能ですが、カセット録音の醍醐味を味わうためには、やはり欲しいところです。
Aメーカー修理対応が(しばらく)見込めるもの
カセットデッキはすでに絶滅寸前のため、上記の機能を搭載した機器は新品で入手できるものはほぼなくなったといっていいでしょう。そうするとどうしても年式の経過したモデルから選択することになりますが、あまり旧いモデルはメーカーでの修理などがすでにできないものがあります(過去の名機と呼ばれているものはほぼ全滅です)。中古で入手する場合、最悪すぐに修理が必要となる可能性もあるため、なるべくメーカー修理対応品を入手されることをお勧めします(カセットデッキのアフターメンテは現在はTEACが最も充実していると感じられます。最近では「旧いテープデッキの修理についてのアンケート」なるものを行っており、かなり旧い機器の修理対応を検討している様子があったりします。)
(2)まずはテープ調整
デッキによっては、「録音レベル調整」「バイアス調整」(デッキによってはもっと細かい調整ができるものもあり)といった調整が可能なものがあります。これらの調整が可能なデッキは、取扱説明書にしたがって「できるだけ調整を追い込む」ことが重要です。
とくに、ノイズリダクションシステムを使用する際は、これらの調整がキチンとなされていないと、まともに再生できない可能性があります。
(3)録音レベル調整について-レベルメーターに注意
まず大事な事は、「カセットデッキでは、ピークレベルメーターの数字(dB)の基準はメーカーでバラバラ」ということです。
これは、EIAJでカセットデッキの規格として「0dBの基準は自由に選べる」ことを許しているためで、それゆえに、一概に「このテープはどの入力レベル(dB)まで入力可能」という表現ができないのです。
しかしながら、それではあまりにも使いづらいので、メーカーが独自の基準で、デッキのメーター上に、「ノーマル」「クローム」「メタル」の各ポジションごとの入力レベルの目安が書いてあるのが一般的です。基本的には、この基準を超えないレベルで録音すればOKのはずですが、この目安はデッキ発売時のメーカーが基準としたテープの性能に大きく依存しています。そのため、現在の安物テープではこの目安ではほとんど音が歪みます(T_T)。逆に、各テープメーカー最上位レベルのメタルテープではこれらの目安を上回るレベルで録音が可能だったりもします。
なお、デッキによっては、EIAJが基準録音レベルとして規定した「0VU」という数値をメーター上に記載しているものがあります(ただし、これは「聴感レベル」という基準によるものであるため、ピークレベルとは若干考え方が異なっています)。EIAJでは、0VU = 160nWb/m(磁束密度で表現)と規定されています。また、もうひとつの基準として、「ドルビーマーク」と呼ばれるドルビー社が規定したドルビー動作基準レベルをあらわしたものがあり、これもデッキによってはメーター上に記載しているものがあります。ドルビーマークは磁束密度で200nWb/mと規定されています。これらのマークはデッキ間の絶対レベル数値として使用可能です。
たとえば、ソニーのデッキは伝統的に国際規格(IEC)のピークレベルメーターを採用しており(0dB = 250nWb/m)、-4dBにEIAJの0VUが、-1dBにドルビーマークが表示されています。そのため、一般的な0VU=0dB表示のメーカーよりも4dBも低く表示されます(ソニーの+10はこれらのデッキでは+14) その他、ドルビーマークが0dBとなっているモデル/メーカーもあります。
また、デッキによっては(主に旧いデッキ)、ピークレベルメーターではなくVUメーターが装備されているものがあります。このメーターは、先に説明したとおり、音の入力レベルに対する表示の考え方がピークレベルメーターとは異なっています(VUメーターの使い方はかなり慣れが必要で、当時のオーディオ誌でも、「何回も使っていくうちに慣れてきて、メーターの読み方が分かるようになる」なんて解説が普通に行われていた・・・)
また、デッキ末期のモデルでは、各種デジタル機器との連携機能を備えたもの(CDの最大録音レベルを自動的にスキャンしてレベル調整を容易にするものや、デジタル直接入力が可能なものなど)があります。こうした機能を利用すると、より簡単にレベル調整が可能です。ただし、テープ毎の性能は非常に差があるため、こうした自動機能もうまく働かない場合が多々あります。
結局のところ、手間を惜しまず、自分の耳をベースに録音レベルを調整するのがもっともよい音で録音する唯一の手段のようです。
(4)機器間の相性について
カセットデッキは精密機器ゆえ、録音・再生にあたっての機器間の相性問題が発生する場合があります。発生しうる主な問題としては、
@ヘッドのアジマスのズレによる高音域のレベル低下
Aテープ搬送速度のズレによる音程の変化
BNR回路の互換性問題による音質低下
などがあります。
B以外は、その機器の組み合わせで使う以上避けて通れない問題となります。それぞれの機器をメーカー送りなどでオーバーホール/調整することで、ある程度は改善が期待できますが、完全に解決できる保証はありません。どうしても解決できない場合は、新規機器を導入するしかない場合もあります。
なお、Bの問題については以下に説明いたします。
(5)ノイズリダクション-DOLBY SYSTEMの使用について
アナログ音源であるカセットテープを使用する上で、非常に重要なテクノロジーが 「ノイズリダクション(NR)」です。
アナログカセットテープの宿命であるヒスノイズを低減し、S/Nを向上させるのが目的です。 アナログカセットの進化の歴史はノイズリダクションの進化の歴史でもありました。 かつてはさまざまな規格が各メーカーから提案され、それぞれの特長を競い合ってい ました。
カセットテープにおけるノイズリダクションシステムとして最も普及したのが、ドルビーラボラトリーが開発したDOLBY B-Type Noise Reduction、いわゆる「ドルビーB」です。
人間の聴感特性を利用した巧妙な仕組みでノイズリダクションを実現し、利用にあたっての難しい調整作業も不要だったため(厳密な動作には調整が必要)、あっというまにカセットNRのデファクトスタンダードとなりました。
そして、これの改良版として登場したのが、ドルビーCとドルビーSです。 ウォークマンでは、音質重視の高級モデルで、ドルビーCにまで対応したモデ ルがいくつか出ています。カセットウォークマンは、かつてはこうしたノイズリダクション回路を搭載したモデルが一般的でしたが、現在ではすでに絶滅寸前というのが現状です。
ただし、このノイズリダクションにもいくつかの副作用があり、そのひとつに「互換性の問題」があります。 Aデッキでドルビー録音したテープがBデッキでは不自然 な音質で再生されてしまう状態です。
ドルビーシステムは、大雑把に原理を説明すると「小さいレベルの音を一定のアルゴリズムで大きなレベルに変換し録音(プリエンファシス)、再生時には逆動作する回路を通すこと(ディエンファシス)でヒスノイズをマスクする」仕組みです。そのため、(こうした動作の基準となる)入力レベルに対して正しい感度で録音できないと、再生時に動作基準レベルがズレてしまい、音がおかしくなります(トラッキングエラー)。
基本的には、ドルビーが期待する精度で録音できる機器であれば、どの機器で録音しても正確に再生できるはずです。しかし、デッキの個体差や経年変化により、NR回路の調整ズレや、テープに対する録音・再生感度の差がどうしても発生してしまうため、結果として、Aデッキで録音したテープがBデッキでは不自然な音質で再生されてしまうのです。
ドルビーBは、その作動が比較的シンプル(それゆえ調整なしで使え、広く普及した)なため、こうした互換性についてはあまり問題になりませんでしたが、ドルビーCは性能向上にあたり、回路作動が複雑かつデリケートなものになり、結果として、互換性の問題がシビアに現れてしまいます。(ドルビーSでは互換性は確認したことがありません・・そんなにデッキもってません。しかし、ドルビーCよりさらに高精度なシステムであることはおそらく間違いないので、互換性はさらにシビアになっていると想定されます)
すべての(再生対象となる)デッキを同一特性になるよう調整するのが理想ですが、実質不可能といえましょう(所有機器全てのドルビーCが互換性に問題なく使える方は、よほどの調整技術の持ち主か、強運の持ち主でしょう)。解決策としてはなるべくノイズリダクションシステムを使わないというのがありますが、ソースとテープの組み合わせによっては、どうしてもNRに頼らざるを得ない場合があります。その場合は、機器間のNR(特にドルビーCの場合)の相性を確認し、相性の悪い機器同士では再生をあきらめるしかないでしょう・・。
なお、その他のノイズリダクションシステム(ハイコム、スーパーD、Adressなどなど)については使用経験がないため、言及できません。。
なお、ドルビーBを使用する際には、やや抑え目のレベルで録音するのが一般的な使用方法です。理由は、ドルビーシステムは基本的に、ある一定レベル以上の信号に対しては、過大レベル録音となるためNR回路は働かないようになっていますが、突然の大入力に対しては反応時間の間レベル入力が過大となってしまう(オーバーシュート)現象が発生します。もちろんこうした状況を想定した回路設計(デュアルパス)を採用してはいますが、どうしても大入力時の瞬間の歪みは避けられません。ので、こうした高レベルの入力に対するNRの処理に余裕を持たせるため、やや抑え目のレベルで録音したほうが実際よい結果が得られると思います。
また、テープの種類によっては、デッキ側で調整しても(特に高域での)特性がドルビーの期待する性能を得られないことで、かえってNRの誤動作を招く場合があります。こうしたテープを使ったドルビー録音では、デッキに装備されたMPXフィルター(15KHz以上の音声信号をカットする。本来はドルビー誤動作の原因となる、FM放送のパイロット信号をカットするためのもの)を意図的にONにすることで、トータルとして音質の向上が期待できます(なお、ドルビーCはこれらBタイプの欠点の改善が行われているが、先の互換性の問題が発生するため、今ひとつ使いづらい)。
これ以外にも、NRに特有の現象(ブリージングと呼ばれるNR作動に伴う息つぎのような乱れの発生など)が存在し、トータルではどうしてもNR-OFFの場合よりもやや音が鈍ります。個人的には、「普及クラスのハイポジテープおよびノーマルテープではNR-BをON(普及クラスノーマルはMPXフィルターもオン)、高性能ハイポジおよびメタルではOFF、NR-Cは原則使用しない」というルールで録音しています(もちろん、ソースによってはこの限りではない)
(6)その他カセット使用についての注意事項
・ウォークマンで90分を超えるテープは巻き込みや(トルク不足による)音ゆれの原因となります。 できるかぎり短めのテープを使用するのが、ウォークマンでのリスニングのポイント です。
・キャリブレーションおよび録音はテープ頭の数秒を送ってから(リーダーテープ付近は製造時の巻きによるテープの乱れがあります。私は最低20秒送ってます)
・保管は高温多湿は厳禁(油断するとカビがすぐに生えてきます)
・月に一度はテープを早送り、巻戻し(磁気の転写とカビ発生を防ぐ)
・デッキ、ウォークマン側のメンテナンスも忘れずに(走行系のクリーニング、ヘッド消磁。それぞれ専用のメンテツールがあります)
以上です。
* MOL(Maximum Output Level=実用最大出力レベル)
* nWb/m(ナノウェーバー・パー・メートル): テープを磁化するための磁束密度の単位。