ウォークマン開発ストーリー Vol.14

WM-EX1(1994)

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テレコから生まれたハイスペック

ある日、久しぶりにウォークマンの部門長と雑談をしました。その中で「もうすぐ ウォークマン15周年だけど、何かインパクトのあるフイーチャーはないかなぁ」という話になったので「良いアイデアが浮かんだら連絡しますよ」と伝えました。

このころ私はウォークマンを離れ、海外のビジネス用テープレコーダーを担当していました。そして、ちょうど新しいハンディタイプビジネステープレコーダー(テレコ)の開発を進めようとしていました。
ビジネス用テレコは単価が高く利益も大きいのですが、売れる台数が少ないため開発費の償却が負担となり、ウォークマンのように新しいデバイスを簡単に起こすことができません。ですので、可能な限り既存のデバイスを使う必要があります。

しかし今回開発するテレコは、ある革新的な機能の搭載を検討していました。
通常テレコは、録音/再生および早送り/巻き戻しを全て一つのモーターで駆動しています。
この新機能には、録音/再生用の動力と、早送り/巻き戻し用の動力に、それぞれ個別のモーターが必要でした。そこで、少しでもコストを抑えるために、この2つのモーターはウォークマンで使用しているものと同じものを使うことで開発費を抑えることにしました。

さらに、早送り/巻き戻し用モーターは、録音/再生用モーターよりかなり速いスピードで回転させる必要がありました。そこで、早送り/巻き戻しモーターの回転スピードをアップさせるための高電圧の駆動回路が必要となりました。

しかし、その時点ではすでにウォークマンの駆動モーターの低電圧化(省エネ化)が進み、高電圧の駆動ICはもう製造されていませんでした。かといって、高電圧駆動回路を新規設計するとまたコストが嵩んでしまいます。

そこで、ウォークマンで採用している駆動ICの内部回路を再度検討したところ、実はごく簡単な変更で、高電圧の駆動回路としても使うことが出来ることが分かりました。さらに、使っていない(余っていた)IC端子を低電圧と高電圧の切り替え用入力端子とすることで、修正後のICは既存の低電圧駆動ICをそのまま置き換えて使うことが出来ることも分かりました。つまり修正後のICを現在のウォークマンにそのまま使うことが出来るので、生産数の多いウォークマンで採用することで、量産効果によりICの価格を下げることが出来ます。
さらに、新規開発ではなく既存ICからの変更なので、開発費も大幅に抑えることが出来るはずです。

ウォークマン部門長と雑談をしたのは、ちょうどそんなことを考えていたときでした。
ですので、ウォークマンの新機能アイデアは、実はすぐに思いつきました。

つまり「ウォークマンでその改造ICを使い、早送り巻き戻しの時だけ、モーターのスピードがアップするように、入力端子を制御してやれば、今まで以上に速い、つまり高速の早送り巻き戻し、高速AMSが実現できるはずだ」と思ったのです。

そして念のために、以前、ウォークマンのフイーチャー開発を担当していたときに、モーター周りの開発を行っていた担当者に、「ICの修正は簡単か」「切り替え入力端子をマイコンで制御すれば、ウォークマンの高速早送り巻き戻しは可能か」を再確認した後、ウォークマン部門長に「高速AMS、早送り巻き戻し」機能を提案しました。

その結果、すぐに採用が決まりICが変更され、AMSの検討も開始されました。
そして1994年7月1日発売の15周年ウォークマンに、15の新機能の一つとして、これまでの1曲分の時間で3曲探せる「25倍速高速サーチ」が搭載されました。
言うまでもなく、ICの修正費用は全てウォークマン部門でもってもらえることになりました。テレコ部門としてはまさに狙い通りになったわけです。

しかしながら、開発を進めていた革新的駆動システムのハンディビジネステープレコーダーは、開発途中で企画中止となり、残念ながらテレコ用としてはこのICを使うことはありませんでした。
それでも、記念すべき15周年ウォークマンの新機能を支えるICとして採用されたことで、その努力は報われたと思っています。

(談:S様)

 

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