ウォークマン開発ストーリー Vol.6

WM-101(1985)

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Part1. WM-101誕生

WM-20で収納時カセットケースサイズを実現した後、次期ウォークマンのテーマは、まずリバース再生、そして言うまでもなく「使うときもカセットケースサイズ」でした。

このカセットケースサイズの実現には、これまでの単三乾電池ではない、新たな電源が必要でした。
検討の結果、67×16.4×7.8ミリの角形の電池(通称ガム電池)を使用することで、カセットケースサイズ実現の見込みが立ちました。ちなみにこのサイズは、カセットケースサイズ内でカセットテープを目いっぱい端に寄せた時に出来るスペースに相当し、カセットケースサイズ実現にあたり、空間をギリギリまで活用することを想定したサイズでした。

そして、この独自規格の電池を、ニッケルカドミウム電池として新規開発することにしました。ニッケルカドミウム電池は充電することで何回も繰り返し使えるため、多少高価な専用電池であってもユーザには許容されると考えたのです。

そして、本体サイズは、今回は「ジャストカセットケースサイズ」にはこだわらず、「ほぼカセットケースサイズ」とすることにしました。
そのおかげで、プリント基板と電気部品のスペースがしっかり確保出来、回路実装コストを下げることが可能となりました。

また、今回のメカニズムの設計は、TPS-L2、WM-2、そしてWM-20を設計した機構設計者が、そして電気回路設計はWM-20の電気設計者が中心となって進めることになりました。
こうして、商品化設計プロジェクトがスタートしました。

今回は、設計効率を考えて4機種を同時に進めることになりました。それは、再生機、録再機(WM-R202)、ラジオ付き再生機(WM-F101)、そして、ラジオ付き録再機(WM-F202)でしたが、まず再生機と録再機を設計し、同時にラジオを内蔵したカセット蓋ブロックを追加設計しました。これを組み合わせることで4機種が完成します。そのため、各機種のプロジェクトと同時に、WM-101シリーズとしてのプロジェクトを結成し、各機種間の設計方針の統一を図ることにしました。

また、本体設計にあたっては、ガム電池だけでなく、従来の単三型乾電池の使用もマストと考えました。ガム電池を使い切った時にも、ウォークマンを続けて利用できるように、今までの(充電池式でない)使い方も可能にしておくべきと考えたからです。
その上で、ガム電池利用の時はカセットケースサイズとなること、また、単三電池の時はカセットケースより少し高くなるが、その量も出来るだけ小さくするために、外付け型の電池ケースをそれぞれに用意する形にしました。 さらに、単三電池用ケースは余ったスペースを活用してDC-INジャックを設けることで、ACアダプターでも使えるようにしました。

実を言うと、ガム電池のサイズ設定にあたって、この電池ケースからウォークマン本体に電力を供給するための接点(+と−)のスペースを確保するのを忘れていました(笑)。そのため、ガム電池のプラス端子の出っ張りの横しかスペースが残っておらず、ガム電池ケースに接点を押し込むのにかなり苦労しました。

この時の試作番号(試作中の呼び名)は、TCX‐750(〜TCX-753)でした。通常、試作番号は連番でつけるのですが、特別なセットの場合は好きな番号をつける習慣がありました。因みに、特別セット第1号はWM-20で、試作番号はTCX‐500 でした。これらはオートバイの排気量(500cc、ナナハン)に因んでつけられました。

また、WM-101の次の特別なセットは10周年記念モデルのWM-701で、この時試作番号は排気量を1000ccに引き上げ、TCX‐1000としたのですが、途中から通常の連番(TCX‐631)に変更しました。理由は、この試作番号だと特別なセットであることが部品メーカー経由でライバル他社に悟られてしまうと思ったからです。しかし、少し考えすぎだったのかも知れないと、今では思っています。

 

Part2.ガム電池製造の道のり

WM-101のキーパーツは何といってもガム電池(角形ニッケルカドミウム電池)です。これが出来なければ、今回の構想は成立しません。

そこで、部品担当と一緒に、開発してくれる電池メーカーを探すことにしましたが、使用数量が少なく、形状が特殊すぎるという理由から大手メーカーには引き受けてもらえませんでした。そんな中、当時、世界最薄のコイン型ニッケルカドミウム電池を発売していた、京都の電池メーカーが開発と製造を引き受けてくれました。

ガム電池は、従来電池が筒型形状なのに対し、その名のとおり角形です。そのため、中の構造も違います。従来品は極板やセパレーターをロールケーキのように巻いていますが、ガム電池はサンドイッチのように切って重ねることで、角形にフイットさせていました。
そして、この電池で特に苦労したのは、ケースでした。最初は金属パイプを角型につぶし、必要な長さにカットしたあと、底面に角型の金属キャップをかぶせる工法を採用しました。そのため、レーザー溶接機で金属キャップの周囲と本体とを溶接するのですが、レーザービームは非常に細く、キャップと本体との間にわずかでも隙間があると、そこを通過して溶接されないため、高い寸法精度が要求され、生産性が悪かったのです。

そこで、深絞り工法(平らな板金を少しずつプレスして、奥行きのある容器をつくる方法)により、キャップと本体が一体のケースを検討することになりました。しかし、底面が16.4×7.8ミリの角型で、さらに奥行きが67ミリもあるため難易度が高く、これまた造ってもらえるメーカーが見つかりませんでした。

そこで、ソニーが取引している板金加工メーカーに検討を依頼することにしました。しばらく試行錯誤が続きましたが、最終的に底面と本体が一体となった、ガム型ケースが完成しました。このおかげで、生産性が改善し、さらにキャップと本体との溶接部分から電解液が漏れるという不良も無くすことが出来ました。

今回は、京都の電池メーカーのおかげでキーパーツであるガム電池が実現し、さらにソニー関連の板金加工メーカーの協力により生産性や品質の改善を図ることが出来ました。
そしてWM-101はユーザの皆さまにも高評価で受け入れられ、大ヒット商品となりました。

(談:S様)

 

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