雑談Vol.8

ライバル機の系譜(2)

SHARP JC-K99

1989年頃発売

 

 

若いユーザには、現在の「SH」ケータイや「AQUOS」といったブランドイメージからは想像がつかないかもしれませんが、15年以上前、当時のシャープはAV家電メーカーとしては「2番手以下」のブランドでしかなく、(あくまで個人的な印象ですが)「ソニーや松下の製品を買うお金がない人が買う廉価ブランド」というイメージでした。(当時シャープはパソコン(MZシリーズ&Xシリーズ)や電子手帳などではすでにステータスを確立していましたが、AV家電のイメージが変わり始めたのは、1992年の液晶ビューカムの発売あたりからではないかと思われます)。

そんな当時のシャープ機の特長は、一言でいえば「チャレンジ精神」といえるでしょう。

今回ご紹介する「JC-K99」も、まさにチャレンジングな機構の固まりといっても過言ではありません。(ちなみに、このモデルは「Piu」という愛称がついていますが、あまり長く使われた記憶がないので、ウォークマンのようなシリーズ名称ではなく、当機種のみで使用されていた愛称と思われます)。

1.軽さ99gの超軽量ボディ

手に取った瞬間、そのの軽さに衝撃を覚えた方は少なくないはずです。充電池込みで99g(型名の99もここから取っていると思われます)と、ウォーキングカセットステレオで100gを切る軽さを実現したのは、私の知る限り、あとにも先にもシャープのみです。軽さの秘密の第一は、「カーボンファイバー」を採用したボディにあります。当時自動車関連の素材として流行していましたが、ウォーキングステレオの外装としては初採用だったと記憶しております。これにより、樹脂ボディとしては極限まで薄型化を実現し、まさに驚きの軽さを実現しました。しかし、「99g」の実現には、先進素材の採用だけでなく、以下に挙げるシャープならではの斬新な仕様によるところが大きかったのです。

本体。とにかく軽い。結晶塗装風の外装仕上げも斬新だった。

裏面にもスイッチ類はなにもない。外側にある操作系は、左上に見えるカセット蓋開閉ボタンのみ。

2.本体からの操作ボタンの排除

なんとも思い切った仕様です。本体に操作ボタンが全くないため、「リモコンなければただの箱」になってしまうリスクをはらんでいます。そのため、当時の(おそらく現在でも)他メーカーでは採用不可能な仕様だったと思われます。この仕様の善し悪しは別として、当仕様での商品化にGOサインが出たこと自体が、当時のシャープの社風を表していると感じます。

なお、すべての操作を受け持つことになるヘッドフォンは、リモコン信号接点部が当時のパナソニックのものと酷似しており、なんらかの協力関係があった可能性があります。

また、このリモコンには特筆すべき特徴がありました。それは、現在は当たり前ともいえますが、ステレオミニプラグによるヘッドフォンの交換が可能な仕様になっていることです。これは、リモコンが本体操作に必須であったことから、好みのヘッドフォンを使用できるようにとの配慮であったと思われますが、当時、リモコンはヘッドフォンとの一体型が一般的であり、ソニーのアラカルトヘッドフォンでさえ91年頃の商品化であったことを鑑みると、極めて先進的な仕様だったといえるでしょう。

これが添付のリモコン部。やや大柄だが、ヘッドフォン付け替えを実現。

3.驚きの電源部仕様

このモデルは、バッテリについても、驚くべき仕様を採用していました。当時ソニーが、ワイヤレスウォークマンのレシーバ用に新規開発した小型ガム型ニッカド電池(NC-4WM)を、なんと本体電源として採用してしまいました。通常ならば、電池の小型化に伴う容量減が連続再生時間に影響するところですが、シャープはここで驚異的な低消費電力を実現。電池容量は従来の2/3(600mAh→400mAh)になったにもかかわらず、充電池のみの駆動で約3時間と、電池の小型化に伴うデメリットを完全に解消してしまいました。もちろん、お約束の外部バッテリケースによる単三乾電池での駆動も可能でした。しかしながら、この仕様により、残念ながら現在ではガム型電池での再生はほぼ不可能になってしまいました(小型ガム型電池は全メーカー生産終了のため)。

なお、この新電池はソニー製品に採用されたのは1990年になってからなのですが、このモデルはそれより1年前に発売されています。このことから、小型ガム電池はシャープが先に規格化した可能性もあります。

上がスタンダードガム電池、下が小型ガム電池。ちなみに写真の電池は液漏れでご臨終の品。

もう一つ、このモデルで印象的だったのが、商品パッケージに、当時人気絶頂の女性ミュージシャン「永井真理子」が使用されていたことです。プロモ契約タレントの画像をそのままパッケージに表示することも当時はかなり珍しいことでした(後にソニーがPINGUを使用したりしましたが)。ちなみに永井さんは今でもアーティストとして活躍しており、オーストラリア在住とのこと。

パッケージ。「君の」とはやっぱりソニーのWM-701Cの事でしょうか。

音質は本体の軽さからは想像できないほどバランスのとれた、オーソドックスなものでした。また、特徴として、カセットの録音レベルに応じた出力レベル切り替えスイッチがあり、レベルの低い録音テープでは高レベル(感度をアップ)、高出力メタルテープの再生時には低レベル出力といった調整ができるようになっていました。これは、低消費電力化に伴うアンプのリニアリティ低下をカバーするためと思われます。

カセットのウォーキングステレオでは、シャープは主要プレイヤーの座を奪えませんでしたが、このモデルで見せたチャレンジ精神は以後のシャープ製PDA・携帯電話隆盛の礎となったといえるのではないでしょうか。

型名:
JC-K99
本体寸法(WxHxD):
107.2×72.5×19.2mm
重量(充電池含む):
約99g
電源:
付属ガム型充電池
  単三乾電池×1
電池寿命:

マンガン電池約5時間、アルカリ電池約9時間(単三乾電池)

約3時間(充電式電池)約12時間(アルカリ乾電池+充電池兼用)
最大出力:

ヘッドホン出力5mw+5mw

ノイズリダクション:
DOLBY-B
  X-BASS搭載
付属ヘッドホン:
リモコン付属
  オートリバース機能搭載

 

以上です。

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