雑感ノート(3)ソニーのデザイン・デザイナーについて

ソニーのデザインについて:

ソニー製品の最大の特徴の一つに「デザイン」があると思います。
(私自身も、ソニーのデザインは素晴らしいと思っています)。

通常、コンシューマ製品の購入者は、機能、性能、価格、ブランドなど、いろいろな要素から購入品を決めます。
その中でもデザインは、購入者をその気にさせる要素のトップに挙げられるのではないかと私は思っています。

実は「良いデザイン」は、購入者をその気にさせる前に、実は設計者をその気にさせる役割を果しています。
ソニーの設計者の多くは、デザインの重要性を理解しており、良いデザインは高く評価しています。ですから、良いデザインに出会うと企画、設計にも力が入ります。
その結果、デザインだけでなく、性能、機能など、全てにおいて優れた製品が生まれるのです。

しかし、デザイナーや設計者の力だけで良いデザインが完成するわけではありません。良いデザインの実現には、新技術やコストアップが必要となることが多いのです。
流行を先取りしたデザインも「良いデザイン」と評価され、それらの中には特に新しい技術を必要とせず、コストもかからないものもあると思いますが、真に斬新なデザインは、今までの技術、今までのコストで実現させるのが難しいことが多いのです。そうでなければ、すでに誰かが実現しています。

ですので、良いデザインの製品は価格は高くなります。
それでも「デザインの良いものが売れる」。
ソニーはそう信じており、それがソニーの商品戦略だと思います。

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ソニーのデザイナーについて:

会社によっては社内にデザイナーを持たず、社外のデザイン会社やフリーデザイナーに依頼しているところもたくさんありますが、ソニーは、社内(社員)のデザイナーがデザインしています。
実は、そのことがソニーのデザインの良さを引き出しているのではないかと思っています。

デザイン会社に依頼した場合、そのデザイン会社にとってメーカー(依頼者)は顧客になります。ですので、顧客の意向に沿ったデザインをすることが最優先となります。ですので「本当はこうしたほうがいいな・・」と思っても、基本は指示された方向でデザインしなければなりません。
でも社員デザイナーなら遠慮なく自分の考えを伝え、指示されたデザインとは別に、自分が良いと思っているデザインを提案することも出来ます。
そしてソニーはそのようなアピールを歓迎しています。

言うまでもなく、ソニーのデザイナーは皆、素晴らしいデザインをします。単なる努力だけで得られた、とは思えない能力を持った人たちの集団だと思います。そしてそれぞれ個性を持っています。
ですので、その中で「特に優れたデザイナーを挙げろ」と言われても、その答えは恐らく評価する人の好みなどにより、分散すると思います。

因みに、私の好みのデザイナーもたくさんおりましたが、あえて「一人だけ挙げろ」と言われた場合、多分Tさんを指名すると思います。
彼は、ベテランデザイナーですが、設計者の言うことをよく聞いてくれました。ですので、企画趣旨をしっかり理解した上でデザインしてくれます。
また、設計都合でデザインの自由度がかなり制約されるセットについても快く引き受けてくれました。そして、その制約をそのデザインの特徴として生かし、素晴しいデザインに仕上げてくれるのです。
そして制約がないときは、今まで見たこともない斬新なデザインをてくれます。勿論、その実現ためには技術的な課題も発生しますが「このデザインのためなら何とかしよう」と思わせてしまうほど素晴らしいのです。
Tさんは、ウォークマン関係ではWM-2の原型となったテープレコーダーのデザインや、WM-701C、WM-R2などをデザインしましたが、それ以外のカテゴリーにおいても、数多くの素晴らしいデザインをしています。

そして、実はどうしても挙げたい人がもう一人います。
それは数十年前にお付き合いした、Oさんです。
彼が凄かったのは、まず、デザインするのが速かったことです。
当時私が企画設計を担当した、特徴のあるラジカセのデザインを依頼したところ、なんとわずか数日で3枚のスケッチを完成してしまいました(通常、全くの新規デザインの場合、1枚の最終スケッチを完成するのに1か月以上は掛ったと思います)。
しかも、それらのスケッチは全て違うイメージに仕上がっていました。1枚目は木目調、2枚目は白ベース、そして3枚目は黒ベースです。
そして、皆、困ってしまいました。
言うまでもなく、採用されるデザインは1つだけです。しかし、どれも素晴らしかったため、どれも捨てたくなかったからです。
そして、泣く泣く、木目調と白ベースのデザインを犠牲にすることにしました。

その数年後、彼がデザインしたラジオICF-7500は、1977年のグッドデザイン特別賞(20周年記念通商産業大臣賞)を受賞しました。
因みに、グッドデザイン賞はスタイリング(いわゆるデザイン)だけではなく、その商品の企画、機能、性能なども含めて評価します。
このラジオは、イヤホーンを使うときはスピーカブロックを取外すことが出来、よりコンパクトになります。その機能と構造、そしてデザインが評価されたのです。
まさに社内デザイナーと企画、設計とのチームワークの成果だと思います。

今のソニーに当時のデザイナーはもう誰も残っていないと思います。
しかし、ソニーのデザインポリシーは現在のデザイナーに引き継がれ、多くの人々に感動を与え続けています。

ソニーデザイン60周年HP
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/design/

ICF-7500
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/design/gallery/ICF-7500/

(談:S様)

 

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