ウォークマン開発ストーリー Vol.11

WM-EX909(1992

機種説明はこちら

スタミナウォークマン誕生

1990年ごろ、ウォークマンの機種設計部門とは別に、ニューフィーチャーなどを考える部門が設けられました。実はWM-600のAB面検出機構は、この部門の最初の成果でした。

この部門は、設計業務から解放されたことで、基礎検討が可能となりました。そこで、メカデッキのどの部分でどれだけの電流が消費されているか、低温、高温ではどうなるか、カセットテープのメーカーによる消費電流の違いはあるのかなど、主にメカデッキの省エネに関する検討を行っていました。
その結果、「フライホイール(※1)が回転しているだけで、非常に多くの電流が消費される」ということが分りました。ウォークマンの場合、オートリバース機構を実現するために、往復双方向にテープを送る2つのキャプスタン(※2)があり、それぞれにフライホイールが装備されています。つまり、この2つのフライホイールを1つにできれば、消費電流を大幅に減らせるということが分ったのです(※3)。
そしてその方法として、マイクロカセットテープで採用している「中央にキャプスタンを設け、その左側にフォワード(FWD:往路)再生ヘッド、右側にリバース(REV:復路)再生ヘッド」という機構案が浮かびました(※4)。

ところが、ウォークマンが採用しているコンパクトカセットテープは、「中央にヘッド設置場所が1つ、その両側にキャプスタン設置場所」という規格が定められています。そのため、オートリバースウォークマンは、「中央に(FWD兼REV)ヘッド、右側にFWD用キャプスタン、左側にREV用のキャプスタン」という配置しかできないのです。つまり、コンパクトカセットテープを使っている以上、1つのキャプスタンによるリバースウォークマンの実現は常識的に不可能だったのです。

しかし、これまで検討を進めてきた設計者はあきらめませんでした。そしてついに非常識な方法を思いつきました。それは、コンパクトカセットの規格に定められた使い方を完全に無視するという方法でした。 彼は、「キャプスタンは中央に無くても良いのではないか」と考えました。そして、まず中央のヘッド設置場所にREVヘッドを入れました。またFWDヘッドは、本来REVキャプスタンにテープを圧着するためのピンチローラー用の開口部に入れることにしました。しかし、このようなレイアウトに適合する既存ヘッドはなかったため、専用のFWDヘッド、REVヘッドを新規開発(依頼)しました。さらに、肝心のキャプスタンは、その2つのヘッドの間にある、カセットテープ位置決め用ガイド穴に入れることにしたのです。

しかし、あくまでも位置決め用のガイド穴であるため、テープ表面へのアクセスは考慮されていません。キャプスタンはガイド穴に潜り込ませることはできましたが、ピンチローラーを入れるには、カセットテープの開口部があまりにも小さすぎました。
そこで、直径の小さい専用ピンチローラーを開発することにしました。これは、今までに例のない寸法だったため、その構造、ゴムの硬度や材質、圧着力、耐久性など、解決すべき多くの検討項目がありましたが、彼はそれらを全て解決しました。

こうして、世界初の1キャプスタンによるリバースウォークマン用メカデッキが完成し、従来のリバースウォークマンの約1.5倍の再生時間が実現したのです。
そしてさらに、付属ガム電池もニッケルカドミウム(NC-6WM)から、ニッケル水素(NC-9WM)に変更することにより大幅な容量アップも実現。最終的に、再生時間が今までのリバースウォークマンの2.2倍の、「スタミナウォークマン」 WM-EX909が誕生したのです。



WM-EX909デュアルヘッド部。キャプスタン右の黒い棒状のものは、FWD側ヘッドにテープを押し付けるためのテープパッド。

 

(談:S様)

※1:テープ走行を安定させるために、キャプスタン(※2)に同軸で取り付けた重量のある円盤状の部品。

※2:テープを一定速度で送るためのシャフト。再生時は、キャプスタンと、対になる「ピンチローラー」と呼ばれるゴムローラーが立ち上がることで、テープを挟みこむ形で送出します。

※3:オートリバースウォークマンの基本構造として、往復2つのフライホイールを、1本のゴムベルトでモーターと繋いでいます。そのため、モーター駆動(再生)中は常に2つのフライホイール(キャプスタン)を動かしている状態となります。なおFWDとREVの切り替えは、テイクアップ(巻き取り)リールの回転ならびにピンチローラー立ち上げをそれぞれ切り替えることで実施します。

※4:ヘッドが2つなのは、テープをヘッドに密着させるためはキャプスタンでテープにテンションを発生させる必要があり、テンション発生箇所が往復でそれぞれ変わるためです。

 

ウォークマン道トップへ

inserted by FC2 system