ウォークマン開発ストーリー Vol.12

WM-550C(1988)

初採用機種:WM-550C

ある日、部品メーカーから、ウォークマン、テープレコーダー用の新方式ヘッド (通称:AZTECヘッド)の検討依頼がきました。

全てのテープレコーダー(プレーヤー)は、最適な磁気記録・再生を行うために、テープ走行方向に対してヘッドが垂直に配置されています(この角度をazimuth=アジマスと言います)。そして、テープに正しく記録・再生するためには、このヘッドが常に垂直を維持している必要があります。

そのため、テープレコーダー(プレーヤー)では組立て後に必ず、テープ走行方向に対してヘッドが垂直になるように、ヘッドの角度調整※を行います。 これは、セット組み立て時に生じるごく僅かな寸法ずれにより、ヘッドの取付け角度がどうしても狂ってしまうからです。

この調整のおかげで、テープとレコーダー(プレーヤー)セットとの互換性が保たれ、どのテープをどのセットで使用しても、常に最良の状態が得られるのです。因みにこの角度がずれると、高音が減衰して、もごもごした音になってしまいます。
しかし、この調整は一台ずつの手作業となり、工数がかかっていたこと、またいくら出荷時に精密に調整しても、カセットテープ側の精度の問題や相性によって、どうしてもわずかなズレが出てきてしまう場合がある、という課題がありました。

AZTECヘッドは、これらの課題を解決する、画期的なヘッドでした。

しかしヘッドメーカーは、通常本体セットを造っていません。ですので、実際のセットでうまく動作するか、そのために改良すべき事はないかなどを確認することが出来ないため、ソニーにセット実装の検討依頼がきたのです。

この「AZTECヘッド」について、構造を以下に説明します。

これまでのウォークマンなどで使っていたヘッドには、片サイドにテープガイドという、「コ」の字型にカットされた厚み1ミリほどの金属板が張り付けあり、走行中のテープがヘッドのところで大きくずれない様に規制しています。ただし、あくまでも大きくずれないためのガイドであり、テープ走行のわずかなズレは補正不可能でした。

それに対して、AZTECヘッドは、まずテープガイドをヘッド両サイドに設置し、また、ガイド部の厚みを従来の板状から数ミリに拡大すると同時に、材料を樹脂に変更することでテープを痛めることなくテープ保持能力を各段に高めました。
さらに、ガイド部分の形状を、従来の「コ」の字型(両側のガイドが直角に立ち上がる)ではなく、片側が斜めに開いた形状となっており、テープの片側が、テープガイドの直角部の面に接しているときにヘッド角度が最良となるように設計されていました。

AZTECヘッド画像(黒い小型のガイドは追加した補助テープガイド)

次に、この機構によって得られる効果を説明します。
まず、テープが直角に立ち上がったガイド側にズレそうになった場合を考えてみます。このときはヘッド両サイドの厚さ数ミリのテープガイド部がガードレールとして機能し、テープはズレることなくガイドに接した状態=最良状態のまま走行することになります。
次に、テープが反対側のガイド方向にズレそうになったときですが、反対側のガイドは斜めに開いています。そのため、テープがズレるとその傾斜を登ることになりますが、キャプスタンがテープを引っ張ることにより発生する力で引き戻され、反対側の直角に立ち上がったガイドに接した状態で進むような設計になっています。つまりテープは結局どちらにもずれることなく、常に最適状態で走行するのです。

 

このようにAZTECヘッドは、「特殊なテープガイドによってヘッド自身が常にテープとヘッドとの角度規制を行ない、テープをヘッドに対して常に垂直となる状態を維持する」という、画期的なメカニズムだったのです。(ちなみに、もしこのメカニズムによらずテープとヘッドの角度を固定しようとした場合、テープガイドのコの字部をテープ幅ぴったりにして、テープとガイドの遊びをゼロにする必要がありますが、このような構造は再生時にテープをガイドに導入・走行させることが極めて困難です(ほぼ確実にテープを痛めてしまいます))

その後、採用に向けてセット実装の検討を行った結果、セットとして改良すべきことが幾つか見つかりました。例えば、ヘッドとは別に補助テープガイドを追加したほうがより安定することが分かりました。また、再生時間の長いC-120テープは、テープ厚が薄すぎる(=腰が弱い)ため、当初のテープガイドの傾斜角度ではテープを正しい位置に戻すことが出来ないため、最適な角度を再検討する、などヘッドとして改善すべきことも幾つか見つかりました。それらの対策と実装検討を何度か繰り返すことで、ようやAZTECヘッド(システム)が完成しました。

その後、ウォークマンWM-550C/F550C/WM-150に搭載することが決まり、それ以降は、全てのウォークマン、カセットテープレコーダに採用されることになったのです。
その結果、ヘッド角度の調整が不要になっただけでなく、音がもごもごするという不具合も大幅に減り、さらにテープ走行が安定したことで、音質も改善されました。

※ちなみに調整方法は、高い周波数を記録した基準テープを再生しながらヘッドを取り付けているネジの片側をドライバーで回し、出力信号が最大となるところ(=正しい角度)を探して、その後ネジをボンドで固定します。

(談:S様)

 

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