ウォークマン開発ストーリー Vol.15

WM-D6(1982)

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Part1.WM-D6誕生

1979年に発売したTPS-L2の大ヒットを受け、社内では次期主力機WM-2や、FM付のWM-F2、内蔵マイク付き録音機WM-R2などの企画・基本設計がスタートしていました。それらのウォークマンのバリエーション展開の一環として、”TC-D5(カセットデンスケ)のウォークマン版“の企画が出されました。

設計構想・基本設計を担当したのはTC-D5シリーズを担当したメンバー達です。基本メカデッキはTPS-L2で使用したTCM-100メカ、バッテリーは電池持続時間の観点から単3型×4本と決めました。これで、ほぼサイズが決まってしまいます。社内では「こんなに大きくてもウォークマンと名乗っていいのかな?」など、サイズ、重量に関する心配意見が多かったですが、担当メンバーは「ライバル機のいない、超小型・高性能録音機だ。必要とする人は必ずいる。TC-D5の小型版だ。」と確信していました。

ディスクドライブ・キャプスタンサーボ

TC-D5と同等の機能を実現するために、プレスマン(TCM-100)のメカデッキに、ディスクドライブ・キャプスタンサーボ機構とメカニカルポーズを搭載しました。また、録再ヘッド(S&F)および、消去ヘッドはTC-D5Mと同じ物を使用しました。

ディスクドライブ・キャプスタンサーボとは、TC-D5のために開発された方式です。モータープーリーを直接フライホイールの弾性体に圧着する摩擦駆動とすることで駆動ベルトを不要とし、さらにキャプスタンに直結したFG(周波数発生器)の周波数が一定になるようにサーボを掛けることにより、「低ワウ・フラッタ」、「高いアンチローリング効果=本体を揺すったときのテープスピードの変動が少ない」が得られます。

TC-D5ではFGをフライホイールに内蔵していますが、WM-D6ではフライホイールの径が小さいので外付けとし、FGとフライホイールの間にモーターを配置しました。

さらに、WM-D6ではクォーツロック(水晶発振制御)を採用し、低ワウ・フラッタ化とテープスピード偏差の極小化を図りました。また、再生時にあえてクォーツロックを外し、テープスピードを約±4%変えられる「スピードチューニング」スイッチを設けました。これは、他の(スピード偏差の大きい)レコーダーで録音したテープを再生した時に生じる可能性のある微妙なピッチのズレを補正するためです。これによって、WM-D6の高音質再生をより一層楽しんでもらえるようにしました。また、このスイッチは録音操作時にメカニカルにOFFにする構造とし、録音内容の確認時に誤ってONのまま再生することを防ぐようにしました。

背面のスピードチューニングスイッチとチューニングダイヤル。メカニカルスイッチであるが、録音ボタンの押下と共にOFFポジションに復帰する。

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Part2.小型化への取り組み

WM-D6の設計時はTC-D5構想時から約4年経過しており、電気部品の小型化、IC化が進んでいました。TC-D5ではドルビーNR回路はディスクリート部品で構成していましたが、TC-D5M以降はIC化されました。しかし、一方でまだ小型化が進んでいない部品もありました。その中でも、WM-D6で小型化実現のために最も重要な電気部品がDC-DCコンバーター(直流昇圧装置)でした。WM-D6で収納可能なスペースに入れ込むには、TC-D5用の9分の1のサイズにする必要がありました。DC-DCコンバーターの小型化のために電気回路設計者がしなければならないことは、昇圧比を小さくすることと、2次側の出力電力を少なくすることです。

WM-D6は電源仕様を単3×4本にしたことで昇圧比はTC-D5(単1×2)の約1/2にすることが出来、さらに一部の回路はDC-DCコンバーターの2次側の電圧を使用せずとも駆動できました。また、2次側の必要電力を少しでも減らすため、性能と消費電力のバランスを見極める設計の微調整を行い、ソニーマグネプロダクツ(当時)に設計を依頼しました。かなり無茶な要求だと思いましたが、「新回路・高密度実装技術」で実現していただきました。

実は、本体小型化に一番貢献したのは「ウォークマン」と名乗ったことです。これによって、従来のテープレコーダーで必須とされてきた各種仕様を見直すことが出来ました。例えば、入出力ジャック類はすべてステレオミニジャックを使用、また録音レベルメーター2個は5点LEDに、内蔵モニタースピーカーも削除することが出来ました。

なお、業務用機器でない製品に「プロフェッショナル」というネーミングを付けることは個人的にはやや抵抗がありましたが、実際に発売開始して多くの人々に見て頂いたとき「大きくて重いね」と、余り言われなかったのはこのネーミングのおかげかな?と思いました。

WM-D6C

当時のカセットデッキの進歩に合わせ、アモルファスヘッド、ドルビーNRCを搭載したWM-D6Cを1984年に発売しました。以下のような改善点も盛り込んでいます。

・ラインイン専用ジャック追加

・マイクアッテネータ追加

・LEDオフポジション追加

・録音レベルつまみをビス止め化 (経時変化でつまみが抜け易くなることへの対策)

このWM-D6Cの登場によって、高音質ポータブルカセットレコーダーとしての進化はほぼ頂点に達し、同時に歴代ウォークマン最長のロングセラー商品(約16年)となりました。

(談:C様)

 

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