ウォークマン開発ストーリー Vol.16

WM-109(1986)

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WM-7は、ウォークマン初のリバース再生とドルビー、そしてフエザータッチメカ(電気駆動によるフルロジックメカニズム)の搭載により、かるくボタンにタッチするだけで再生、リバース、早送り、巻き戻し、停止のコントロールを実現。さらにヘッドフォーンコードの途中に設けられたリモコンスイッチで、再生、停止、リバース操作も可能・・と盛りだくさんの機能を備えたウォークマンとして登場しました。しかもこれだけの内容を持ちながら、初代ウォークマンTPS-L2とほぼ同じ寸法に収まっていました。
しかしながら、その前に登場して大ヒットとなったWM-2が、さらに一回り小さかったこと、そして価格差があったことから、WM-7は残念ながら大ヒットにはなりませんでした。
しかしこのセットは、間違いなく将来のウォークマンを先取りしているという実感がありました。

その後、WM-2に代わってWM-20が登場したことで、ウォークマンはさらなる小型化を追求した「カセットケースサイズ時代」に突入しました。そこでドルビーは標準装備となりましたが、リバース再生については、さらにその次の機種に委ねられることになりました。
そして、それに応えるべく登場したのがWM-101です。この機種は、新開発のガム型電池を採用することで、本体のカセットケースサイズを実現すると同時に、リバース再生とリバースを連続して繰り返すリピート再生を実現し、予想通りの大ヒット商品となりました。

そしてWM-101の後継機の企画が立ち上がり、ようやく持ち望んでいた「リモコン機能」の検討が開始されることになりました。
因みにWM-101のメカニズムは、WM-7で開発したフルロジックメカニズム方式ではなく、TPS-L2と同じメカ操作ボタン方式でした。その理由は、WM-7と同じ方式のフルロジックメカニズムをカセットケースサイズに押し込むことが難しかったからです(※1)。
一方、リバース再生を連続して繰り返せるようにするリピート機構をメカリンクだけで実現しようとすると、かなり複雑になってしまうことが分かりました。
そこで、「リバース切換」だけは、トリガーマグネット(※2)という部品を使うことにより、電気信号で切換えられるように設計されていました。

このWM-101のメカニズムを流用してリモコン操作を行おうとした場合、リモコン(=電気信号)で制御できるのは「リバース切換」だけで、「再生・停止」を行うことは残念ながら出来ません。

そこで、WM-101のメカニズムの一部を設計変更することにしました。具体的には、メカ操作ボタンの再生ボタンと停止ボタンを廃止し、代わりに「再生・停止」切換用にもトリガーマグネットを追加して、電気スイッチで制御できるように変更しました。
これにより、ヘッドフォーンコードの途中に設けられたリモコンスイッチで「リバース切替」と「再生・停止」をコントロール出来るようになりました。

そしてさらに、リモコンに音量ボリュームも追加することにしました。
その結果、ほぼメインと考えられる機能については、ウォークマン本体をカバンの中に入れたまま、リモコンで操作が可能となりました。
また、早送りと巻き戻しはメカ操作のままでしたが、プッシュボタン方式からスライド方式に変更することにより、ドルビースイッチ、テープセレクトスイッチなどの各スライドスイッチ類と同じイメージで操作できるようにしました。

上記の方針決定後、WM-101のメカデッキの設計を変更した原理試作品が完成。そして商品化が決定しました。
早速、企画導入会議が開かれることになりましたが、その中で「リモコンだけではややインパクトに欠けるのでは?」との意見が出され、いくつかのアイデアが提案されました。最終的に「今までとは違ったイメージのデザインにチャレンジしてみよう」ということに決まりました。

因みに、これまでのメイン機種のデザインは、金属外装を強調した精密機械的なイメージが主流であったが、このセットは、よりソフトで、よりシンプルなイメージのデザインにまとめられることになりました。
具体的には、パネルの表面処理を今までのアルマイト処理ではなく、パステル調のパール塗装とし、本体のコーナーも今までのセットより、丸みを持たせるデザインが採用されました。さらに、そのイメージと色調を、本体だけでなく、付属のリモコン付きヘッドフォーンにも適用するというこだわりようでした。

こうして、パステル調パール塗装による、黒、白、ブルー、そしてピンクのカラーバリエーションを持ったWM-109が登場すると、我々の予想をはるかに超えたヒット商品となりました。
それは、勿論リモコンが評価されたこともありましたが、実はそれ以上に、今までにないファッショナブルで華麗なデザインが高く評価され、女性ユーザを中心としたファッションに敏感なユーザ層から多くの支持を得た結果でした。

そして、言うまでもなくWM-109はグッドデザイン賞を受賞し、デザイン史に残る名作ウォークマンとなりました。

(※1):のちにWM-701にて、WM-7とは別方法によるフルロジックメカを実現
(※2):トリガーマグネット・・・磁力(電磁力+永久磁力)の変化でメカの動作を制御する部品。通常(電流オフ)時はメカは永久磁石の力でその状態を維持。電流オン(=電磁石の力で永久磁石の力をキャンセル)でメカの保持力が解除されてメカモードが切り換わり、再び電流オフで切り換わったメカ状態を維持する

(談:S様)

 

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