ウォークマン開発ストーリー Vol.2

TPS-L2(1979)

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Part1:トップの独断が生んだ革新機

ウォークマン1号機であるTPS-L2は、プレスマンというハンディテープレコーダーが原型となっているのは良く知られているお話かと思います。

プレスマンにステレオ再生機能を追加した改造品は、実はほんの3日ほどで作成されたものでした。
そして改造品の音を聞いた会長はいきなり 「250万台は売れる!」と言いました。

この台数は当時の人気カセットテープレコーダの10倍以上に相当する、とんでもない数字でした。 そして、これを4ヶ月で商品化するよう命じたのです。これは通常の日程の1/4でした。さらに仕様についても、全て会長が独断で決めました。

通常、新機種が企画されると、PL、電気、メカなどの担当者で構成された、商品化プロジェクトが結成され、まず、仕様、日程を含む構想書を作成し、承認後、設計開始となります。この構想書の段階が非常に時間と工数がかかるのですが、ウォークマン初号機の時は、皮肉にも会長の独断のおかげで、厳しい日程の中、構想書作成の時間を省くことができました。

さらに 会長は、初回生産台数は3万台と指示されました。でも、実はその後事業部判断で仕込みをこっそり3千台に減らしました。それでも、ほとんどが在庫になると、皆が思っていました。 このとき会長の周りには、誰一人としてこの商品が売れると思った者はいなかったのです。 そして少しでも売れ残りを減らそうと、様々なキャンペーンも実施しました。

しかし、いざ発売すると、予想に反してあっという間に3千台を売り切ってしまい、あわてて追加生産となりました。
ただ、追加生産しようにも、今度はモーターの在庫が2200台分ほどしかなく、トータル5200台弱で出荷が一時停止となってしまったのでした。

これが初代ウォークマンが発売して間もなく品切れとなり、店頭から一時姿を消した知られざる理由です。

因みに、ビデオデッキ、カラーテレビなど、ほとんどの新カテゴリー商品は、多くの技術者が何年もかけて開発した末、1号機が生まれます。
それに対しウォークマンは、わずか4ヶ月で、しかもトップの独断により誕生しました。 しかし、このあとは「WM-2のメカニズムはウォークマン専用にしなさい」と命じたのを最後に、会長がウォークマンに口出しすることはなくなりました。 そして、事業部に一任されたウォ―クマンは、さらなる進化を遂げていくことになります。

Part2:ステレオミニプラグ・ジャックの採用

試作機である、プレスマン改造品に使ったヘッドフォーンのプラグは標準ステレオ(大型3極)タイプでした。当時はステレオヘッドフォンのプラグ・ジャックは一種類しかなく、また、そのジャックは大きすぎてプレスマン本体に収めることが出来ず、リード線で引き出した先にジャックがぶら下がっていました。

しかし、商品となると、ジャックがリード線の先端にぶら下がっている状態はあり得ないため、まずはこの問題を解決する必要がありました。

その答えはすぐに見つかりました。それは、当時モノラルマイク・イヤフォン用に使われていた2極ミニプラグ・ジャックと同サイズの、3極ミニプラグ・ジャックがすでにソニー内にあったのです。

実は、この3極ミニプラグ・ジャックはウォークマン開発の数年前、ソニーが開発したエレクトレットコンデンサーマイクで導入されていたのでした。エレクトレットコンデンサーマイクは、マイクの駆動に電圧が必要なため、電池を内蔵しているのですが、ソニーはこの内蔵電池を、テー プレコーダー用だけでも不要とすべく、外部電源供給方式によるエレクトレットコンデンサーマイクを企画、その実現にあたり、通常のミニジャックに電源供給用の極を追加した、3極ミニジャックを採用していました。

さらにネーミングも「EPP(External Phantom Power)ジャック」と決まっていたのですが、他社との互換性がなくなるという理由から、企画中止となり、残念ながらマイク用としては商品化はされませんでした。

しかし、このおかげで、3極ミニジャックはすぐに入手することが出来、ステレオジャック問題は速やかに解決することが出来ました。また、このステレオミニジャックはウォークマン発売以降急速に普及し、今では多くの様々なデバイスに搭載されています。

(談:S様)

 

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