ウォークマン開発ストーリー Vol.8

WM-DX100(1992

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超低電圧アナログICへの挑戦

WM-701Cの開発時、1Vの電圧で動作するドルビーCのアナログICが欲しくなりました。
なぜなら、既存の3V動作のICでは、ウォークマンの場合昇圧回路(1V→3V)から電圧を供給することになり、消費電流が増加して電池寿命が短くなってしまうのです。

そこで、ドルビー回路を得意とするICメーカーに、開発を依頼することにしました。そして「難しいICなので出来るかどうかは分からないが、挑戦してみる」との回答をもらいました。
そのためWM-701Cは、従来の3VのICと、新ICが完成した場合の両方を考慮して設計を進めることにしました。もし新ICが間に合わなかった場合は、残念ながら電池寿命は短くならざるを得ません。

因みにドルビーとは、磁気テープ固有のノイズを軽減するためのシステムで、当時の一般向けシステムはドルビーBとドルビーCの2種類がありました。ドルビーCはBよりさらにその効果を上げる目的で考案されたシステムですが、その分、設計も難しくなります。例えば、ノイズはICからも発生するのですが、ドルビー回路設計においては、そのノイズを極限まで抑えなければなりません。そうしないと、磁気テープのノイズが減っても、ICからのノイズが聞こえてしまっては意味がないからです。
そのために通常は、ICの駆動電圧を高くします。なぜなら、ICノイズのレベルは駆動電圧を変えても同じなので、高い電圧を使えばアナログ信号レベルを高くすることが出来、相対的にノイズレベルが小さくなるのです。しかし今回は電圧が1Vしかないため、複雑な回路構成と相まって、ノイズ対策は困難を極めました。
因みに、通常ICは0.7V以下では動作しません。そのため、有効に使える電圧幅は、3Vが2.3V(3-0.7)なのに対し、1Vでは0.3V(1-0.7)と、約1/8になってしまい、3Vとは全く別の回路構成が必要となるのです。

そして、残念ながらこの1V動作ドルビーICはWM-701Cの発売には間に合いませんでした。それでもIC担当者はあきらめず、採算を度外視して何回も挑戦してくれました。それはICの物理特性の限界への挑戦でした。そうして、ようやくICが量産できるようになってからも、良品率はかなり低く、ウォークマンのメイン機種に使えるだけの数量を確保することは難しかったのです。しかし、何としてもウォークマンにこの省電力ドルビーICを搭載したいと思いました。
そして、いろいろ考えた末、候補にあがったのがWM-DX100です。この機種は、重さや大きさではなく高性能を優先したウォークマンとして企画され、また高価であったため、生産台数は少なめに抑えられていたので、低い歩留まりであっても必要な数量をクリアすることができました。
こうして、おそらく「世界一難しいアナログIC」と思われる、1Vで動作するドルビーC対応のICが搭載された、貴重なウォークマンが世の中に出ることとなったのです。

(談:S様)

 

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