雑感ノート(4)プラグインパワー方式マイクについて

ウォークマン開発ストーリーVol.2「TPS-L2」の中で、「3極のステレオミニジャックはすでに存在していた」という話をしました。それは、TPS-L2登場の数年前、モノラルテープレコーダーのマイクジャックを3極ミニジャック「EPP(External Phantom Power)ジャック」に変更し、追加した極からエレクトレットコンデンサーマイクに必要な直流電圧を供給するシステムを検討していたからです。しかし残念ながら、他社との互換性などの問題から、この企画は中止となりました。

一方、ウォークマンの大ヒットにより、録音機能付きのウォークマンが企画されました。当然ウォークマンですので録音はステレオです。そしてマイクジャックが必要ですが、以前のステレオマイクロフォンは、ケーブルの先端で左用と右用の2つのモノラル(2極)マイクプラグに分かれていました。それをステレオ録音機の左用と右用のマイクジャックに挿しこんで使います。しかし、1年ほど前からステレオ(3極)ミニプラグを採用したステレオマイクが登場しました。それは、ステレオテープレコーダーTCS-310、M-1000用に開発されたものでした。ですので、ウォークマンもステレオ(3極)ミニジャックを採用することにしました。また、モノラルマイクジャックと区別するため、ステレオ(3極)ミニジャックを設けた録音機のマイクジャックは「MIC(STEREO)」と表示することにしました(WM-F2、WM-D6など)。

因みにステレオ(3極)ミニプラグを使ったステレオマイク(ECM929LT・ECM-101など)は、全てエレクトレット式でしたので電池を内蔵していますが、ECM-101はボタン電池を使用し、ケーブルが無く、小型の本体から直接プラグが生えている形状のため、マイクジャックに直接取り付けて内蔵マイク感覚で使え、内蔵マイクのないウォークマンでも手軽に録音することが出来ました。

そして、これらの小型エレクトレットコンデンサーマイクの提供後しばらくして、やはりといいますか、マイクに必要な電圧をウォークマン本体から供給したいという要望がでました。

目的は(EPPと同様に)マイクの電池交換の煩わしさをなくすこと、そして電池や接点などの削除により安価なマイクを造り、それをセットに付属したいと思ったからです。

しかも、すでに発売済みのステレオ(3極)ミニプラグ式エレクトレットコンデンサーマイクが使えることが前提なので、極を追加せず、ステレオ(3極)ミニジャックのままで電源供給を実現する必要がありました。

検討の結果、左と右のマイク極に直接、電圧(1.5〜3V)を印加すればマイクが動作することが解り、さらにその電圧があっても、すでに発売済みのエレクトレットコンデンサーマイクは(電池は必要ですが)問題なく使えることが確認出来ました。音声信号に電流を重畳させているため、電池内蔵(またはEPP式)エレクトレットコンデンサーマイクに比べて、ジャックの接触状態が悪い場合にノイズが発生しやすくなるというデメリットはありましたが、 かつてEPPで目指した「外部電源によるエレクトレットコンデンサーマイク」が、ついに実現した瞬間でした。

そして製品化にあたり、この新機能に「プラグインパワー(PLUG IN POWER)」という名称を付け、対応した機器には、マイクジャックに「MIC(PLUG IN POWER)」と表示することにしました(WM-D6C、WM-R15、WM-R55など)。同時にプラグインパワーに対応した小型直付けステレオマイクECM-102を発売、その後しばらくして、安価なステレオマイク(ケーブル付)も完成し、セットへの付属を開始しました。

すると、これもまた当然と言いますか、モノラルテープレコーダーにもこれらの電池不要(プラグインパワー)のマイクシステムを導入したいという要望が復活しました。

言うまでもなく、現状の2極ミニジャックをそのまま使うことが前提ですので、ステレオ同様マイク極に電圧を印加します。
早速、プラグインパワーの電圧印加で現状のモノラルマイクに問題が起きないかの検討が始まりました。ソニー発のステレオミニジャックの場合と違い、モノラルミニジャックのマイクは、カラオケ用ダイナミックマイクをはじめ様々な仕様のマイクが市場に存在するため、確認も相当な工数がかかりました(因みに冒頭のEPPの3極ミニプラグ/ジャック開発はこの問題の発生リスクの回避が目的でした)。
そして検討の結果、市場のほとんどのモノラルマイクで問題ないことが確認されたことから、導入が決まり、ステレオセット同様、対応セットのマイクジャックに「マイク(プラグインパワー)」または「MIC(PLUG IN POWER)」と表示することになりました。

そして現在も、ソニーから音楽やビジネス用などの録音機器(ICレコーダーなど)用マイクとして、プラグインパワー式のステレオやモノラルのマイクが売られています(今はどちらも3極ミニプラグを採用していますが、モノラル、ステレオどちらの録音機器にも使用できます)

しかし今のマイク需要の中心は、パソコンやスマホ用です。そして、これらにも同じミニジャックが使われているものがあります。しかし録音機器用とは互換性が無いようです。
例えばパソコン用(ディスクトップ?)は、いわゆるEPP方式を採用しているため3極ミニジャックを使っていますが、マイクとしてはモノラルです。ですので(同じ3極ミニジャックの)録音機器用マイクとの互換性はないと思われます。またスマホ用は、ステレオヘッドフォンとプラグインパワー式モノラルマイクを一つにまとめた、4極ミニジャックを採用しているようです。
ですので、マイクを購入するときはそれが適合品であるかの確認が必要だと思います。

(談:S様)

 

ウォークマン道トップへ

inserted by FC2 system